講演・報告資料

07-09(?) 国際金融恐慌と世界同時不況を読み解く(解説)

Ⅰ 07-09国際金融恐慌の特徴

①経済の金融化、金融グローバル化、金融証券化が全面的に進展したもとで発生した最初の世界金融恐慌

②不動産バブル・証券バブルが引き起こした複合的金融危機が世界同時不況に拡大した

③米欧の大手金融機関が莫大な損失を計上し、さまざまな機関投資家が全世界的に損失を被り、80年代以降国際金融市場を主導してきた「投資銀行モデルが終焉」した 

④仕組み証券市場のドミノ的崩壊を食い止めるためのスーパーSIV計画が失敗し、米欧日の大手金融機関と監督機関の協力で金融危機を封じ込める体制が構築できなかった

⑤アメリカを中心に、大恐慌期以降前例のない大規模な政府・金融当局による介入、救済が展開されている(Too Big To Fail政策)  

Ⅱ 仕組み証券市場のバブル崩壊という今回の金融恐慌の新しい様相

①あらゆるローン、資産を証券化する「仕組み金融」はなぜ蔓延したのか

②金融証券化によって銀行のビジネスモデルはどのように変化したのか

③「仕組み金融」とデリバティブ取引はどのように関連しているのか

④BIS規制はなぜ金融証券化を促進したのか

⑤格付け会社はどのような役割を果たしたのか

⑥モノライン保険はどのような役割を果たしたのか

⑦ヘッジファンドはどのような役割を果たしたのか

⑧なぜ投資銀行モデルは終焉したのか

⑨なぜ世界中の機関投資家が莫大な損失を被ったのか

Ⅲ そもそもなぜこれほど深刻で世界的な金融恐慌が発生したのか

①グローバルな規模で蓄積された莫大な「過剰な貨幣資本」(金融投機の原動力)

②金融自由化による金融規制の空洞化、国際金融市場の「迷宮化」、ヘッジファンドなど「シャドーバンキング」の蔓延

③金融証券化、金融グローバル化、デリバティブ市場の爆発的膨張によって、主要な金融市場が結びつけられ、システムが肥大化し、相互の連動性が高まった

④仕組み金融(金融工学)が先導する金融証券化と銀行モデルの変化によって、銀行のリスクマネジメントが空洞化した

⑤仕組み金融の複雑さによって、機関投資家は自分が購入する証券のリスクを自分で評価することができなくなった

⑥金融界と金融当局に、金融市場の効率性に対する根拠の無い過度の信頼(市場は政府よりも賢明であるという市場信仰、市場の神格化)が広まっていた

⑦以上のような諸条件のもとで、大手金融機関による仕組み証券の技法およびデリバティブ取引のとほうもない濫用が広がり、世界中の機関投資家が仕組み証券バブルに巻き込まれた

Ⅲ 金融恐慌と世界不況の今後の行方

①金融恐慌の震源であるアメリカの住宅不況はまだ深まっており、住宅価格の下落、住宅売れ残り、着工件数・販売件数の落ち込みに歯止めがかかっていない

②大手金融機関、機関投資家の損失にも歯止めがかかっていない

③住宅ローンを組み込んだ仕組み証券だけではなく、企業向けローン、自動車ローン、消費者ローン、カードローンなどあらゆるローンのデフォルト率が高まっており、これらを組み込んだあらゆる仕組み証券の価格下落・評価損が広がっている

④すでに、住宅産業だけではなく、自動車、電器、運輸、素材など広範な産業に不況が広がり、物価下落(デフレ)現象も広がりつつあり、失業率の上昇などによって、世界的不況はさらに深刻化すると見られる

⑤そのために、金融危機からデフレへ、デフレから金融危機へという悪循環ができあがっており、日本での90年代後半期のような長期デフレに陥る可能性が強まっている

⑥現在各国政府・金融当局が実施している銀行救済、財政支出拡大を中心とする対応策がどの程度効果を発揮するかを予測することは困難である

⑦アメリカ政府・金融当局の対応の不手際(銀行向け資金供給中心の金融政策、リーマンブラザーズを破綻させたことによって銀行救済基準が不明確になった)が金融危機を深刻化させた影響がある

⑧現在なお50兆ドル以上にのぼるクレディット・デフォルト・スワップ(CDS)市場が崩壊しないで秩序を維持したまま整理できるかどうか、この過程で、現在残っている大手銀行、保険会社、ヘッジファンドなどが存続できるかどうか、見通しが不透明

⑨各国の金利がほとんどゼロ金利に近づき、すでに莫大な「流動性供給」によって実質的に「量的緩和政策」が進行しており、これ以上の金融緩和が困難になっている

⑩財政支出についても、すでに多くの国が莫大な財政赤字を抱えており、これ以上どこまで財政支出を拡大できるか、どのような分野に財政支出を行うのが効果的か、金融緩和と財政支出の相乗効果がもたらすインフレ圧力をどのように制御するか、問題が多い

Ⅳ 国際金融市場の「モンスター」をどうするか

①金融市場の透明性を高め、大手金融機関と機関投資家の過度のリスクテーキングを抑制するための施策を実施する

②BIS規制にかわる現代の金融市場と金融産業の実態にマッチした国際的規制基準を設定する(VAR,格付け制度の見直しを含む)

③Too Big To Fail の対象となる可能性のある大規模で多角化・グローバル化した金融機関については、特別な監督体制を構築し、その他の金融機関よりも厳しいプリューデンス基準を課す。必要な場合は、これらの金融機関の分割を促進する

④ノンバンクセクター、金融ブローカー、ヘッジファンド、SPVなどを含む「シャドーバンキング」に対する実効的な規制・監督体制を構築する

⑤決済制度、金融市場、大規模金融機関(保険、年金などを含む)は、広い意味の公共財であり、経済システムのインフラであることを明確にし、それにふさわしい経済社会的役割、本来の社会的使命を果たすように抜本的な制度改革を進める(金融システムを社会経済システムのインフラ(=基盤装置)として埋め込む embedding)

⑥上記の⑤の構想は、それぞれの国にふさわしい(あるいは、それぞれの国民が望ましいと考える)福祉社会・福祉国家の実現という全体的な将来構想との関連でなされる必要がある。

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