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(4)ウォール街のネズミ捕り

大規模な金融バブルに、詐欺とスキャンダルが伴うのは歴史の通例である。今回の金融バブルも、もちろん例外ではない。すでに多くの告発がなされているし、ごく最近も、何人かのファンドマネージャーが、インサイダー取引の嫌疑で逮捕されている。
しかし、元NASDAC会長のメイドフを首謀者とする巨大投資詐欺事件は、その資金規模、首謀者の名声、被害者の範囲、さらには裁判結果において、空前絶後という他はない。
メイドフは、1960年代初頭にBLMISなる投資会社(SECに登録され、全米証券業協会(NASDA)会員)を立ち上げ、主として、証券市場でのマーケット・メーキング(自分の提示価格で顧客の注文に応じる取引)、自己勘定取引、さらに最近では投資顧問業に従事していた。
BLMISは、顧客からの預かり金を株式、オプション他の証券に投資し、その収益で気前の良い高利配当を約束していた。同社の業容拡大には、メイドフ自身のNASDAC会長としての前歴やウォール街での人脈が大きくモノをいっていた。彼はホームページを通じ、自分の個人的信条を、「価値、公正な取引、高い道徳水準」と記していた。
2008年末に資金繰りに行き詰まり、方策が尽きたメイドフは、それが、完璧なネズミ講であることを告白し、同年12月11日にFBIによって逮捕された。彼は、すでに1990年代の早い時期から、BLMISがポンツィ金融(わが国でいうネズミ講)のスキームに転落していたことを認めた。要するに、顧客から運用を任された資金をほとんど投資に回さず、投資家への配当と自分とその家族を含む内部者への手当てに充てていたのである。逮捕された時、すでにBLMISの金庫はほとんど空になっていた。
法定に立った彼は罪状について争うことなく、2009年3月の被告人陳述で、詐欺、マネー洗浄、窃盗、横領など11の罪を認めた。その結果、6月に下された判決では、合計150年の長期禁固刑を宣告された。
かれに連座して、その他の古い幹部たちの何人かも、同様に100年を超える禁固刑を言い渡された。また、同社の監査を担当していた会計士は、今後の判決で、最長114年の長期刑が予想されている。さらに、高額報酬と引き換えに同社の不正を隠蔽するコンピュータプログラムを書いたプログラマー(複数)も、50年の禁固刑が予想されている。
新聞報道によれば、BLMISが顧客から与った資金の総額は500億ドルを超えており、顧客の中には富裕な個人とならんで少なからざる金融機関(野村の名前もあがっている)や機関投資家が含まれていた。
事件発覚後、裁判所が認めた受託者は、1万6000人の顧客名簿に照会の依頼を発送し、ニューヨークタイムズ他の新聞を通じて、請求金額の通知を呼びかけた。しかし、期限が終了した現在も、BLMISが顧客から預かっていた資金の正確な金額は明らかになっていない。
受託者の報告によれば、2009年10月末時点で受託者が認定した顧客への払い戻し額は、44億3800万ドルに上っている。同じ報告によると、BLMISは少なくとも11カ国に資産を分散保有し、その中にはバミューダ、バハマ、ケイマン、など多くのタックスヘイブンが含まれている。こうした活動には、JPモルガン・チェースなど多くの銀行の口座が利用されていた。
世界的金融危機の経過と絡まって発生した、この驚愕すべき詐欺事件の意味について、イギリスの著名な政治学者A.ギャンブルは、最近の著書で次のように記している。
「メイドフは、ウォール街の誤り、そして1980年代に新自由主義者が奨励し創出に向けて決定的な手段をとった金融資本主義の文化全体の誤りのシンボルとなるであろう」(『資本主義の妖怪』139ページ)
つまり、ギャンブルによれば、メイドフはウォール街が期待した役割を見事に果たし、その逮捕によって、スケープゴートあるいは「金融崩壊の顔」になったのである。だとすれば、メイドフが集めた巨額の資金は誰のポケットに入ったのであろうか。

コメント
ポンツィは1920年代アメリカの伝説的詐欺師の名前で、以後、ポンツィ金融はいわゆるネズミ講(無限連鎖講)を意味する言葉になった。ただし、今回の金融バブルでは、メイドフの組織だけではなく、仕組み証券市場の異常な膨張を引き起こした金融システムと、これを作り出すことで巨利をあげてきた投資銀行モデル自体が、要するにウォール街の仕組みそのものが壮大なネズミ講になっていたことを見落としてはならない。だからこそ、メイドフは金融崩壊の象徴になったのである。

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